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「夕凪の街 桜の国」

映画『夕凪の街 桜の国』OFFICIAL SITE

この映画を見てはっきりと自覚した。
以前にも少し書いたことだが、ぼくが悲劇の映画やドラマを見て泣けるかどうかは、その悲劇をけっしてくりかえしてはいけない、という作り手の思いの強さに比例するのではないかと思う。
無論、「作り手の思い」などというのは数値化できないので、そのあたりの厳密さを追及されると困るのだが。
少なくとも、悲劇をくりかえさないことに真剣になれば、その悲劇がなぜ起こったのかを真剣に探求するはずだ。

いうまでもなく、この映画における悲劇の元凶は、ヒロシマに投下された原爆だ。
同名の原作漫画同様、けっして声高に反戦・反核をさけぶ映画ではない。
しかし、声高でないことと、真剣でないこととはまったく別物なのだ。

「夕凪の街」編で、原爆症で亡くなる主人公・平野皆実役を演じた麻生久美子さん

「私は、はずかしながら、今まで原爆や戦争について、あまりよく知らずに、というよりも知ろうとしてこなかったんです。だけど、この映画に出会って「それではいけないな」と、過去の自分を反省しました。これからは、私たちが伝えていく側にならなければいけないと、心から思っています。」
夕凪の街 桜の国 Official Blog「舞台挨拶付き試写会の様子をご紹介します!(3)」より)

「桜の国」編で、平野皆実の姪、石川七波役を演じた田中麗奈さん

「この映画のなかに『このお話はまだ終わりません』という言葉が登場しますが、私自身も、この作品を通して、まだ戦争や原爆は、終わっていないんだな、ということを改めて実感することができました。そして原爆は、広島の街や、広島の人々だけの痛みだ、と思っていた部分があったのですが、実際にこの映画に参加してからは、原爆は広島の人たちだけの痛みではなく、日本人みんなの痛みで、その痛みをみんなで分かち合うからこそ学べることがあって、それをみんなで共有していかなくてはいけないんだと思いました。」
夕凪の街 桜の国 Official Blog「舞台挨拶付き試写会の様子をご紹介します!(3)」より)

そして、佐々部清監督

(「どんな人に見てほしいですか?」という問いに)「見てほしい、ではなく、原爆を唯一落とされた日本の人が見なければならないもの。キャスト・スタッフにはそういう誇りを持って映画を作ってほしいと言った」
HTB 「ワンサカ!」でのインタビューより)

これだけ、キャストとスタッフがストレートにその悲劇の元凶にむきあって、「悲劇をくり返してはいけない」という強い思いで結ばれている。
「原爆がテーマだから」といってしまえばそれまでだが、原爆投下を「しょうがない」と発言するしょうもない大臣がいるぐらいなのだから、意義深い。

…ちょっと自分が感情的になりすぎるのを抑えるために、妙に「評論家」的に書いてしまった。
ほんと、もういい映画。
ぜひたくさんの人に見てほしい。

原作漫画の印象を実に見事にふくらませている。
同じ佐々部清監督の「出口のない海」と通じるテーマ、「生き残ってしまったという自虐」を抱える皆実に、吉沢悠さん演じる打越がその彼女の存在すべてをうけとめてかけるプロポーズの言葉、「生きとってくれて、ありがとうな」のセリフが実にあたたかく、救いとなって生かされている。
また、つらくても、恋をし子どもを生んで未来をひらこうとする人間の強さが描かれるのもいい。
その命のリレーを妹から皆実へ、皆実から母へ、母から息子の嫁へ、嫁から娘・七波へとつながっていく髪飾りのリレーに託して描くのも映画版でふくらませた点で、成功している。

この映画、昨年夏の真っ盛りに撮影されたそうだ。
佐々部監督は「この映画を涼しい広島で撮ってはいけないような気がして」とどこかで(すいません)語っていた。
ぜひ、この暑い真っ盛りに映画館に出かけて見てほしい

「「夕凪の街 桜の国」」への1件の返信

[…] そこで「夕凪の街 桜の国」をご覧になった方、この「父と暮らせば」もお勧めです。 「夕凪の街 桜の国」について書いたときにもキーワードにした、「生き残ってしまったという自虐」について自分が最初に考えさせられた映画といえます。 […]

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