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「この世の外へ――クラブ進駐軍」

この世の外へ クラブ進駐軍 [DVD]

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「武器より楽器なんだよ」――萩原聖人の台詞に、映画館は、妙にしんと静まりかえった。

映画は、第二次世界大戦直後の日本を舞台に、戦争にかかわる過去をもった 5 人の青年の姿と、彼らがジャズを通してふれる進駐軍=アメリカの姿をも描いていく。

バンド・リーダーの萩原聖人さんだけでなく、音楽的にも精神的にも主柱となるベーシストを演じた松岡俊介さん、音楽性を高めるのに貢献した、本職のトランペッター MITCH さんらも好演。
しかし、快演はオダギリ・ジョーさんだ。

どこか頼りなく間が抜けていていつも笑いのきっかけとなるキャラクター、一方で戦争・長崎での被爆の話になると、とたんにゆるがぬ太さをもってその苦しさ・怒りを爆発させるキャラクターの二面性をもった複雑な人物を見事に演じている。
演奏経験があるというドラムも違和感ない。

そんな彼の演技のソフトさとシニカルさでこの映画をつつんでいるのは、当時の青年たちが見たアメリカという国に対する憧れと失望だ。
ジャズと、コーラと、自由と、平和とをもたらしてくれた連合軍・アメリカ――。
たしかにアメリカは、最新の楽譜と、憧れと対抗心の対象となる友人を日本にもたらした。

しかし、戦争中に押入れのなかで聞いていたというエピソードとあわせて、「ジャズがアメリカから来たものといわれてもピンとこない。もともと日本のなかにジャズはあった」という台詞。
赤狩りのシーンでは「これが自由か!!」という叫びが挿入される。
そして、参戦した朝鮮戦争に送りこむことで、「友人」とその命をも奪ってしまう。

パンフレットでは、「『進駐』とは戦勝国による敗戦国『占領』の言い換え」とわざわわさ解説を加え、映画のラストでは朝鮮戦争での死者数のテロップを流し、エンドロールの背景で当時の実際に活躍していたアーチストの現在の姿を紹介する。
現実との接点を探る姿勢、「この世の外へ」というよりも「この世の内側で」なんとかしたいという模索が感じとれる。

いまひとつ未消化なストーリーと人物像など、パーフェクトな映画とはいいがたい。
しかし、重さと笑いのバランス、ジャズに対する真剣さ、そしてアメリカの戦争に日本が派兵をしている現時点でのジャーナリズム的な意義など、なかなかの意欲作といえる。

惜しむらくは、マスコミの注目度が低く、いまとなっては上映する劇場や時間が限られていること。
条件のある人はぜひ!

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