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「夏物語」

発売元 : 東宝
品番 : TDV17183D / 価格 : 4,935円(消費税235円ふくむ)

『夏物語』公式サイト

予告編が単なる恋愛映画でない時代観がありそうなので、見に行ってみた。
60年代末を舞台に、イ・ビョンホンは当時の学生、ユン・ソギョンと、現在(60歳過ぎって感じかな)を1人で演じる。
ソギョンが農村で出会って恋に落ちるのが、スエ演じるジョンイン。
ぼくは韓国の歴史にそれほど詳しいわけではないが、当時の軍事独裁の時代の中で、それとたたかった学生たちの大きな流れの1人としてユン・ソギョンが描かれる。

ソギョンは実業家で権力者の父をもつ一方、スエの父親は北朝鮮へ行った「アカ」。
映画の素朴な印象としては、時代に引き裂かれたロミオとジュリエット的恋愛映画、というものだが…。
しかし、ぼくには、途中からジョンインとそれをとりまく農村での夏の日々が、「自由」を象徴する存在に思えてならなかった。
学生たちが掲げた流行語的な「自由」ではなく、実感をともなった理想である「自由」として。※

「今度会ったときには、2度と手を離さないで」

という印象的な言葉を残して、ソギョンの前からいなくなるジョンイン。
ソギョンの心象として、ジョンインが目の前からいなくなったことよりも、それでも心の中にジョンインの姿を描きつづけたことに重きを置いているところにも、そうした意図がにじんで見える。

ゆえに、ソギョンの葛藤は、みずからの理想と保身やしがらみとの間の葛藤なのだ。
本当はもっと韓国の近現代史をふまえてから見た方が正確だと思うのだが、ソギョンが学生時代を送った時代は日本での「60年代安保」とかさなる。
残念ながら日米安保条約が成立したことをうけて、日本では「挫折」という言葉が流行語になった。
「挫折」して理想を失うのではなく、大きなムーブメントが去った後にも理想を心の中に抱きつづける美しさ――そういう普遍性がこの映画にはあると思う。
ちょうど、つい最近、サミュエル・ウルマンの「人は理想を放棄することによって年をとる」という「前むき一言」を紹介したのが思い出されるし、高校生のときに読んでショックを受けた森鴎外の「舞姫」ともダブる。
この映画でことさらに時代背景を説明しなかったのは、そうした普遍性を意図してのこと――というのはちょっとひいき目の深読みか。

※ぼくの意図としても、映画としても「北朝鮮」を自由の象徴ととらえているわけではけっしてない。
当時の韓国においては、反体制=北朝鮮側=「アカ」という図式が体制側によって流布されていて、自由や民主主義をもとめればそれは同じ次元で弾圧の対象だったことが描かれる。
戦前の日本で天皇制反対や反戦をいえば「アカ」といわれ、現代においては雇用や税負担における大企業の横暴をおさえる規制が必要だといえば、「全体主義(=アカ)」と攻撃されるのと同じ。
「アカ」のレッテル張りは、時代や国をこえて体制側が言論を抑えこむのに便利につかってきたのだという点も、この映画をみて実感した。
…ちょっと脱線したが、親が北朝鮮にいったというだけでそこまで攻撃される世の中は自由といえたのかという限定的なキーワードとしての「北朝鮮」であり、ジョンインをふくむ田舎の田園風景や恋愛のエピソードの一つひとつが、若き日の理想と自由の象徴ではないか、というのが主旨。

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