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「グッバイ、レーニン!」

グッバイ、レーニン! [DVD]

「グッバイ、レーニン!」日本語公式ホームページ

予告編を見て、ちょっと興味をもっていた。
舞台は「ベルリンの壁」崩壊前後の東ドイツ。
主人公アレックスの母親は、社会主義の理想と夢をもちつづけている。
が、ひょんなことから昏睡状態におちいり、眠っている間に、「ベルリンの壁」は崩壊し、東ドイツに文字通りの激動が訪れる。
母親は奇跡的に目を覚ますが、アレックスは母親の病状を案じ、「まだ社会主義は崩壊していない」と芝居をうつことに。
市場から消えた商品を探し、母親にテレビを見せるために「最新ニュース」を友だちと撮影する…。

自分なりに期待するテーマ性があって見に行った。
それは興行的に押している「おまぬけ社会主義を笑い飛ばすコメディー」にとどまらないメッセージがあるような予感がしたからだ。

「いい予感」はほぼ的中。
冷静な目で「ベルリンの壁」とソ連邦の崩壊をとらえていて実に興味深かった。

第一に、事実の問題として、遠くはなれた日本ではなかなか実感しにくかった生活の変化――というより激変を描いていたこと。
貨幣が変わり、その価値が変わり、文化が変わり…そんなのは日本人にはちょんまげから洋服にかわっていった明治維新ぐらいしか例えようがないが、それだって数年かけて徐々にすすんだものだ。
現代の経済のスピード感のなかに、人間の生活が押し流されていく感覚は、この映画での疑似体験ではじめて感じることができた。

そして、あの世界史的な激変で、「壊れたもの」はなんだったのか、という問題だ。
「ベルリンの壁」が崩壊した1989年、ソ連が崩壊した1991年、そのリアルタイムに、ぼくは学生で経済学――いわゆるマルクス経済学――を中心に学んでいた。
どっちにしろ「ソ連型社会主義」など、反面教師にこそなれ、日本の現実の経済に生きるとは思っていなかったから、自分が学んでいることがムダになったというような気持ちはなかった。
しかし、世の中的には「資本主義の勝利」が叫ばれ、「社会主義」「マルクス」と名のつくものは全否定というムードだった。

しかし、それと前後して日本での「バブルの崩壊」。
大学に6年いたぼくに、多くの人が「4年で卒業すりゃよかったのに…」というほど、劇的に就職難の波が押し寄せた。
資本主義につきものの景気変動の渦に巻きこまれながら、「資本主義の勝利」を暗記で唱える後輩たちに、当時は「なんじゃそりゃ?」と思っていたものだ。

1998年、経済学者のアマーティア・セン教授は、南北問題など貧富の差を拡大させる(資本主義の)世界経済に心を痛め、「経済学に倫理的視点を」と主張し、アジアで初のノーベル経済学賞を受賞した。

それからさらに5年、この映画「グッバイ、レーニン!」は、「ソ連型社会主義(タイトルの「レーニン」がさすものはこのことだろう)」の崩壊は当然のこととしたうえで、いまの資本主義がかかえているさまざまな問題に生活者の視点からメッセージを発信する。
こうして文化として昇華され、ヨーロッパ、アメリカで一定の評価を得ていると聞いて、実に感慨深かった。

ぜひ、こうした背景を理解した上で見ていただきたい映画だ。
残念ながら、日本での興行的には、上記のように「おまぬけ社会主義」、「家族愛」(いったい何に「愛」を感じるのか。単に一生懸命介護したにとどまらない、母の理想や夢に心寄せる主人公の心境の変化ぬきにこの映画は語れないはず)で押している。
ぼくが見る前の回が終わったあとの「コメディーかと思ったのに…」という若い女性の声を聞き、映画が終わった後、頭の上に「?」マークを浮かべている観客たちの姿を見るにつけ、やや残念に思う。
ただし、残念に思うべきは、映画の興行的な問題にとどまらず、資本主義批判が十分に成熟しているといえない日本の社会的なムードについてなんだろう。

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