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「ラストゲーム 最後の早慶戦」

ラストゲーム 最後の早慶戦 (通常版) [DVD]

映画「ラストゲーム 最後の早慶戦」公式サイト

以前紹介した「郡上一揆」の神山征二郎監督の作品とあって公開早々の9/1に行きました。
おすすめです。

太平洋戦争下の1943年10月、学徒出陣を目前にして、早稲田と慶応の野球部の学生たちが「最後の試合」をした、という。
歴史をふまえなければ、「たかが 1 つの野球の試合でしょ?」ということになるだろう。
しかし、同年 4 月に文部省はその野球を、戦争の相手国であるアメリカのスポーツだからと実質的に禁止していたのだ。

バカバカしい。

しかし、それが戦争なのだろう。
「贅沢は敵」、「一億玉砕((日本国民全員が死んじゃったら、なんのために戦争やってんだっつー話))」とか、圧倒的多数の国民には不条理で理不尽なものだったのだ。

劇中、さまざまな形でその不条理や理不尽の壁が立ちふさがる。
それでもせめて最後に大好きな野球をさせてやろうとがんばる大人たちがかっこいい。
早稲田大学野球部顧問の飛田穂洲を演じた柄本明さん、まさに早慶戦をもちかけた慶応大学総長・小泉信三を演じた石坂浩二さんの存在感は圧倒的。

正直、野球部の学生たちは、そんなにしっかりとキャラが立っている感が弱いのだが、逆に観客にとって感情移入しやすい、さわやかで純朴な青年たちを演じて、映画の中での役割分担をしているように思う。

ラストに流れる鬼束ちひろさんの「蛍」も情感あふれる曲で余韻を演出。この曲、「YouTube」で見られます

鬼束ちひろ / 蛍-movie edit-Chihiro Onitsuka / hotaru -movie edit- http://www.universal-music.co.jp/onitsuka/

以前に紹介した「出口のない海」は、同じく戦中に野球部で活躍した学生が人間魚雷に乗り込むという話。
本作を見た後にぜひ。

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「崖の上のポニョ」

崖の上のポニョ [DVD]

映画「崖の上のポニョ」公式サイト

妻がジブリ・ファンなんで。

「手書きの絵にこだわった」ってのはなかなか成功して、ダイナミックですよ。
冒頭のたくさんのクラゲが海中に浮かぶようす。
「ファインディング・ニモ」で似たようなシーンがあるわけだけど、「ニモ」のCG では近くのものも遠くのものもリアルにクラゲの造型なわけですよ。
本作、「ポニョ」では、手前はしっかり「クラゲ」でも、中景から遠景はほぼ丸い形が描いてあるだけ。
大雑把っていえばそれまでなんだけど、逆に雪が降るような感じの想像を刺激する。

また、光の帯みたいな表現も、CG 的には「光っている一つひとつの粒子はなんなんだ?」といったアプローチになると思うが、「ポニョ」では「光の帯は光の帯だよ」といった感じに画面を黄色い固まりが覆う。
最近、テレビCMでやっている、海の波を巨大魚に例えるなど、リアルであることよりも、頭の中のイメージをそのままに描こうというのは逆に斬新な印象だ。

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「父と暮らせば」

最近、「夕凪の街 桜の国」を検索キーワードにこちらのブログに来てくださる方が多いのです。
こんなちっぽけなブログですら関心をもってもらえるのですから、映画のパワーを感じます。

そこで「夕凪の街 桜の国」をご覧になった方、この「父と暮らせば」もお勧めです。
「夕凪の街 桜の国」について書いたときにもキーワードにした、「生き残ってしまったという自虐」について自分が最初に考えさせられた映画といえます。

こちらはおもに登場人物が3人。
井上ひさしさんの原作どおりの戯曲調で、映画的には物足りない感じがしないでもないですが、その分、核心に迫って考えさせられる仕上がりになっていますよ。

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「夕凪の街 桜の国」

映画『夕凪の街 桜の国』OFFICIAL SITE

この映画を見てはっきりと自覚した。
以前にも少し書いたことだが、ぼくが悲劇の映画やドラマを見て泣けるかどうかは、その悲劇をけっしてくりかえしてはいけない、という作り手の思いの強さに比例するのではないかと思う。
無論、「作り手の思い」などというのは数値化できないので、そのあたりの厳密さを追及されると困るのだが。
少なくとも、悲劇をくりかえさないことに真剣になれば、その悲劇がなぜ起こったのかを真剣に探求するはずだ。

いうまでもなく、この映画における悲劇の元凶は、ヒロシマに投下された原爆だ。
同名の原作漫画同様、けっして声高に反戦・反核をさけぶ映画ではない。
しかし、声高でないことと、真剣でないこととはまったく別物なのだ。

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「それでもボクはやってない」

周防正行監督最新作『それでもボクはやってない』公式サイト

2日おいて、またしても「大事な映画」。
爽快感とか、感動とかいった感情よりも、人間の理性によびかけるタイプの映画だ。

とにかくリアル。
同じ周防監督の「Shall We ダンス?」や、「シコふんじゃった」などを先駆けとして、最近元気な日本映画に共通しているのは、「ひたむきさ」だと思う。
その世界にずっぽりはまって俳優たちなんかもまきこんじゃって、生身で表現する感じ。
これはもうリアルの前提として必要な姿勢だと思う。
先日紹介した「フラガール」もそう、「ウォーター・ボーイズ」もそう、ラストの決定的なところにむかって、俳優が役と一体になって練習し、挫折し、それでも精一杯とりくむ過程までもが映画の一部、みたいな。
ハリウッドだったら「ドル箱」俳優の「顔が見えないところはスタントの仕事でしょ?」の一言で終わっちゃいそうな…。

今作においても、少なくとも周防監督自身は相当数の裁判を傍聴し、本を読み、関係者の話を聞いてつくりあげたんだろうなぁ…というその没入感やリアリズム、そういったものが自然にかもし出す恐怖や屈辱、笑いや希望にあふれている。
それをあえて「演出してやろう」という感じでなくやっているところに新しさがある。

そして、この映画、痴漢冤罪事件をテーマにしてはいるけれど、やはり日本の司法制度全体を告発した社会派映画だ。

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「出口のない海」

「出口のない海」公式ホームページ

「チルソクの夏」、「カーテンコール」と、自分のピントにぴったりだった佐々部清監督作品ということで楽しみに出かけた。

多量の爆薬を積み、人間が操縦して敵艦船に体当たりするという人間魚雷、回天。
戦争に行く意味、敵を殺す意味、自分の死の意味…それを考えつづけた学徒兵たちの葛藤が全体を覆う。
回天を敵艦船のそばまで運ぶ潜水艦と、人一人がやっと座れる回天内部が映画の主要な場面となり、精神的にも肉体的にも「出口のない」状況を描く。
生きて帰ることになっても、「(お国のために)死ねなかった」という残酷な後悔をひきずるという出口のなさ…。
靖国史観派の人たちは、戦争を反省することを自虐というが、戦争ゆえに引き起こされたこの「生きていることへの自虐」をどう説明するのか。

主人公たち個人の葛藤が問題なのではない。
戦争というシステムが彼らをそこに追いこんだというメッセージが大事だ。

激しい応戦があるわけではないし、血が出るとか、手足がふっ飛ぶとかいう視覚的・肉体的な苦痛もないので、戦争映画としては淡々としているかもしれない。
しかし、ずっしりと心にのしかかる映画だ。
翌日、妙に腹筋や太ももが筋肉痛で、きっと映画館の座席でふんばってしまっていたのだろう。

市川海老蔵さんが演じた主役の並木浩二は、甲子園にも出場した大学野球のピッチャー。
戦争が切り裂いた若者の夢として野球を選んだのは「出来すぎ」と思うかもしれない。
しかし、実際にそんな青年がいたのだ。

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映画「博士の愛した数式」

博士の愛した数式 [DVD]

映画「博士の愛した数式」公式サイト

試写会行きました。
この映画をみて思い出したこと2つ。

1つは、小学生だか中学生だかのときに、「最高に尖った鉛筆削り」に夢中になったこと。
薄い刃のカッターで削ったり、しまいには鉛筆を斜めにして紙をやすり代わりに芯の部分を磨いたり。
そうしてできあがった鉛筆が描く、ものすごく細い線にほれぼれとしたものだ。
しかしある日気づいた。
つきつめていくと円すいの頂点はあくまで数学的な点、つまり「幅がない」のが真理である。
つまり「完全に尖った鉛筆」は線の幅がない=書けない鉛筆ということになる――この結論にたっしたときのなんとも不思議なすがすがしい気持ちを忘れることはできない。

もう1つは、楽譜の不思議さ。
人類が、音楽という聴覚によるある種の刺激に感動をおぼえるというのもすごいことだと思う。
とくに詩ののった歌ではなく、楽器による演奏に対しては、とくにそうだ。
しかも、人類はそれを視覚的な記号である楽譜に記録するというやり方を生み出した。これまたすごい。
さらにさらに、楽譜を視覚的に読むことで、聴覚的な感動を頭の中に再現できるという人間の理性の力はものすごいことで、こればっかりはほかの動物にはけっしてマネのできない人間らしい能力だと思う。

さて、この映画を見て感じたのは、数式に美しさを感じる人間の理性の力のすごさ。
一方で、人間はつねに不完全なものであること――間違いをおかしてはずかしい思いをすること、人を好きになる気持ちがむくわれないことのもどかしさ…。
その両方が1つに統一しているのが人間だという人間賛歌がこの映画の主題だと思う。
おいおいと泣けるわけではないが、わきあがる不思議な感動…この映画に感動することができる自分という存在そのものにも感動してほしい。

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「サマータイムマシン・ブルース」

サマータイムマシン・ブルース スタンダード・エディション (初回生産限定価格) [DVD]

「サマータイムマシン・ブルース」公式ホームページ

ひさびさに「いい感じ」の日本映画。
「SFなんて読んだことないSF研究会」の部室に突然あらわれたタイムマシン。
ちょいとエアコンのリモコンをとりに昨日へいってみるか――っていう軽さがいい。
出演の、瑛太さん、上野樹里さんなんかの、日常的なハイテンションぶりが実に絶妙だし。
タイムマシンってのも永遠の夢だけど、そもそも昨日やきょうって短い日常がドラマになるのが青春。
このドタバタ感が最高!!

高校・大学時代、ぼんやり充実とした日々を、心のどこかでは終わることのないものと信じていた、たしかに。
ある意味、それは、きょうから昨日へとえんえんとタイムマシンに乗りつづけていたような感覚だったといえなくもない。

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「パッチギ!」

パッチギ! (特別価格版) [DVD]

「パッチギ!」公式ホームページ

以前に「チルソクの夏」を紹介したが、いわんとすることはとても似ている。
日本、韓国、北朝鮮…地理的に間にある海や川にたとえて、それぞれの国のあいだにあるあつれき、障害の不条理さを描く。

本作は、日本と朝鮮半島の間にあるあつれきを映像から感じるエネルギーとして描いているので、よくも悪くもインパクトがある。
その描写については、そこまで暴力的に描く必要があるか、という議論は十分ありえるとして、テレビでみる井筒監督そのまんまの「怒れ!若者!!」というメッセージなのだろう。

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「隠し剣 鬼の爪」

隠し剣 鬼の爪 通常版 [DVD]

「たそがれ清兵衛」をアカデミー賞にノミネートさせた山田洋次監督の時代劇第2弾。

笑いあり、涙あり、息つまる真剣勝負あり、そしてラストシーンでほろっと感動させる映画の王道中の王道のつくり。
平侍のつましい暮らしと、かつての剣の仲間を斬るという役回りをもった片桐宗蔵を永瀬正敏さんが堂々と演じ、彼に女中奉公する農家の娘、きえを演じた松たか子さんも実にりりしく美しかった。

しかし、パンフレットを読んだりシーンを思い返したりするなかで、ガーンと深い感動をもよおさせるという、実に不思議な映画だ。
それは、時代劇という意味での「時代」と、現代につながる歴史という意味での「時代」と両面において、じつにていねいにつくられた映画だということなのではないかと思う。