「出口のない海」

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「チルソクの夏」、「カーテンコール」と、自分のピントにぴったりだった佐々部清監督作品ということで楽しみに出かけた。

多量の爆薬を積み、人間が操縦して敵艦船に体当たりするという人間魚雷、回天。
戦争に行く意味、敵を殺す意味、自分の死の意味…それを考えつづけた学徒兵たちの葛藤が全体を覆う。
回天を敵艦船のそばまで運ぶ潜水艦と、人一人がやっと座れる回天内部が映画の主要な場面となり、精神的にも肉体的にも「出口のない」状況を描く。
生きて帰ることになっても、「(お国のために)死ねなかった」という残酷な後悔をひきずるという出口のなさ…。
靖国史観派の人たちは、戦争を反省することを自虐というが、戦争ゆえに引き起こされたこの「生きていることへの自虐」をどう説明するのか。

主人公たち個人の葛藤が問題なのではない。
戦争というシステムが彼らをそこに追いこんだというメッセージが大事だ。

激しい応戦があるわけではないし、血が出るとか、手足がふっ飛ぶとかいう視覚的・肉体的な苦痛もないので、戦争映画としては淡々としているかもしれない。
しかし、ずっしりと心にのしかかる映画だ。
翌日、妙に腹筋や太ももが筋肉痛で、きっと映画館の座席でふんばってしまっていたのだろう。

市川海老蔵さんが演じた主役の並木浩二は、甲子園にも出場した大学野球のピッチャー。
戦争が切り裂いた若者の夢として野球を選んだのは「出来すぎ」と思うかもしれない。
しかし、実際にそんな青年がいたのだ。

そのうちの一人として心に残っているのは嶋清一さん。
1939年の甲子園第25回大会で、準決勝、決勝をノーヒット・ノーランにおさえる大記録をうちたてた。
約70年を経た現在まで、同一大会で2回のノーヒットノーランというこの記録はぬりかえられていない。
彼がすすんだのは明治大学で、映画の並木も同じ設定になっている。
まわりも本人も、プロでの活躍を期待していたが、学徒動員され、ベトナム近海でアメリカ軍の攻撃を受け、帰らぬ人となった。
参考に : 天才投手・嶋、2試合連続の大偉業(asahi.com)嶋清一(和歌山県情報館)

嶋清一さんのことは、松坂大輔さんが甲子園で活躍したときに知った。
それほど高校野球に興味があったわけじゃないけれど、同じ「大輔」のよしみで、なんとなく松坂さんのニュースは気になっていた。
が、その「松坂よりすごいのがいた」、と。

松坂さんは来期以降、アメリカの大リーグに移籍することが確実となった。
今後、松坂さんの大リーグでの活躍のニュースもどんどん飛びこんでくるだろう。
ぼくはそのたびに嶋さんのことを思い出すに違いないし、忘れない。
平和であってこそ、その夢が実現できるのだ、と。

おまけ : 上野樹里さん演じる恋人との別れのシーンは、東京からの電車の中とプラットホーム。
こりゃまた、「ラブストーリー」の思い出し泣きでつられる。
たしかに。
電車に乗る兵士というのは、戦争という止めることのできない大きなものに流され連れられていく感じを視覚的によく暗喩していると思う。